脳由来神経栄養因子 BDNFとは

 神経栄養因子の中でうつ病などに関係があるのが、脳由来神経栄養因子BDNFと言われているもので、うつ病の治療や予防に関係があると言われてきています。
 すでに20年以上も前に、実験動物に抗うつ薬を持続的に投与して脳の海馬という領域でBDNFの量が増加してくることが報告されています。この報告は当時アメリカに留学していた日本人研究者の研究結果で、その後もよく引用されています。
 海馬という領域は、ご存知のように記憶を司る部位ですが、その他の働きとしてストレスをコントロールしていると言われます。抗うつ薬はセロトニンなどの神経伝達物質にその効果を表すと言われますが、最近では、BDNFを増やすことにより海馬などの部分の修復をしてうつ病の状態が回復できる、という考えも多くなっており、ヒトでも亡くなった方の脳を検索してそのことが実証されているようです。
 BDNFは神経細胞に栄養を与える働きがあり、具体的にはBDNFが受容体と結合すると細胞内にいくつかのシグナルが伝達されることで神経細胞が他の神経細胞とシナプスを形成し、神経新生を促進すると言われています。神経細胞が活動すると、このBDNFが放出されて、栄養作用を施すことで記憶や学習が可能になると言われています。反復学習をすると記憶が形成されるのは、神経細胞が繰り返し活動することでBDNFが分泌され、細胞同士がシナプスを形成してつながる→記憶の形成、ということのようです。
 また、BDNFは視床下部にも発現しており、食欲を抑える働きもあり、ダイエットにも関係があるようです。BDNFは脳だけではなく、末梢組織にも豊富に存在していて、糖代謝やエネルギー代謝を改善する作用も持っており、骨格筋、心臓、肝臓、褐色脂肪細胞などでグルコースの取り込みを促進して糖利用を高めるなどの作用も認められています。さらに、血小板の中にもこのBDNFが蓄えられていて、止血作用の際に放出され、周囲組織に栄養作用を施し、貢献していると言われています。
 運動をよくすることで海馬のBDNFが減少しなかったということから、運動をよくしてストレスを克服できれば良いと考えられます。

<参考文献>
「こころに効く精神栄養学」女子栄養大学出版部 功刀浩先生著