地中海式食事の利点 ~精神栄養学的視点から~

 精神の病気にはその人の栄養摂取が関係していると言われています。食生活を含む生活習慣がうつ病などの他、いろいろな精神疾患と関係するというデータが近年明らかになってきました。
 食生活は徐々に変化していますが、ヒトの遺伝子はそれに対応して変化したわけではなく、現在の日本での西欧式食事も日本人の遺伝子に適応したものでもなく、西欧式食事が生活習慣病の一つの原因となっていると言われ、その中に精神の病気も含まれているのです。
 日本の伝統的食事には、野菜や果物、牛肉や魚、全粒穀物が含まれ、西欧式食事にはミートパイやハム、ソーセージ等の加工食品、ポテトチップス、ハンバーガー、砂糖、加工乳製品の他、精製した小麦粉製品のパンなどがあり、最近では、食生活の変化がうつ病や統合失調症、認知症、発達障害などの精神疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。
 西欧式食事を摂っている人たちの中には、うつ病罹患率が高く、日本の伝統的な食事の人にはうつ病や不安障害などの頻度が低かったという報告もあります。
 では、どんな食事が精神疾患を起こしにくいのでしょうか? 最近、日本の伝統的な食事だけでなく、地中海式食事に利点があると言われています。

地中海式食事とは?
 その特徴は、種々の病気の発症予防に有効な果物、野菜、豆類、穀類、魚が多く、肉や乳製品などの摂取は比較的少なく、オリーブ油を多く使用し、ワイン等を飲む機会が多い、などと言われています。
 地中海式食事の利点の一つは、魚の摂取量が多いことで、そのため、魚油に含まれるn-3系不飽和脂肪酸などの摂取が多くなります。n-3系不飽和脂肪酸やn-6系不飽和脂肪酸は中枢神経系の構成成分としても機能的成分としても極めて重要ですが、体内では合成できないため、食餌成分から摂る必要があります。
 n-3系のα-リノレン酸とn-6系のリノール酸、アラキドン酸を必須脂肪酸と呼びますが、脳などの諸器官にとって重要なのは、n-3系ではα-リノレン酸から酵素反応を受けてできるEPAやDHAで、n-6系で重要なのはリノール酸からできるγ-リノレン酸やアラキドン酸で、DHAとアラキドン酸は神経細胞膜の主要構成要素でもあります。
 EPA、DHAは魚(マグロ、イワシ、ブリ、サバ、サンマ、ウナギ等)に含まれており、アラキドン酸は肉、乳製品などに豊富に含まれているため、西欧式食事の場合、n-3系とn-6系のバランスは1:20程度にまでアンバランスになってしまうこともあるようです。n-3系とn-6系のバランスは1:4程度が良く、地中海式食事の場合、そのバランスを保つことができるとされています。
 n-3系不飽和脂肪酸は認知症や気分障害、また注意欠陥障害の予防にも良いようです。

<参考文献>
 「精神疾患の脳科学講義」金剛出版 帝京大学医学部附属病院 功刀浩先生著