一人の人間として

 2022年11月、クリニックを開院してなんとか一周年を迎えた。年末28日には2022年の最終診療を終え、2022年を無事?乗り越えることができた。患者さんや家族をはじめ、多くの方々に支えられて、なんとか一年経った。

一年前の不安を都合よく忘れている
 振り返れば、開院前はひーこ先生にとって不安は決して小さくなかった。患者さんのお役に立てるのか、患者さんはお越しになるだろうか、自身の健康面は大丈夫だろうか、コロナに罹患しないだろうか、などなど挙げればキリがないぐらい不安材料はあり、周囲からの反対もあった。体調も崩した。高齢で頑張ることをマイナスに受け取る向きも少なくなかった。
 受診される患者さんの中には、悲しい出来事や不安な気持ちをずっと抱えている方が少なくない。思い出しては苦しくなる。その気持ちが強いほど簡単に消えるものではないように感じる。
 しかし一年経って、ひーこ先生は開院前の不安を都合よく忘れているようだ。ガランとしていたクリニックや苦しんでいた日々のイメージはあまり先生にはなく、初めから患者さんがお越しになっていたかのように話すことが多い。もしかすると、自身の中では、不安な気持ちも覚えているものの、あえて忘れるようにしているのかもしれない、と周りは考えたりするが、真意は分からない。

一年前と変わったところ
 一年前と変わったところと言えば、ひーこ先生が少し太ったこととクリニックでの脚を鍛えるエクササイズを増やしたことだろうか。本当に太ったかどうかは周りからは分からないが、クリニックでの昼ごはんの時間が15時近くになってしまうことや、午後診療のある日は夕食の時間が遅くなってしまうことは太る要因になっているかもしれない。
 また、クリニックへの出退勤時には歩くが、少し歩く距離や時間が減っていてカロリー消費も減っているかもしれないこともあり、脚の筋肉を鍛えるために、フィットネスクラブ発案のバウンドクッションを新たに手に入れて、午前診療と午後診療の間に利用し始めた。バウンドクッションは、座ったままで誰でも簡単に下半身の筋肉をシェイプアップできるようなので、毎日3分間ずつだが、エクササイズしている。少しでも効果が出て、大腿部の力が向上したら、普段歩く距離を延ばしてみようか、とひーこ先生は話す。新たな挑戦を始めたようだ。

心療内科・精神科医として

白衣を着て診察するひーこ先生
 ひーこ先生は白衣を着て診察する。病院では白衣や診察着の先生が多いが、他の精神科クリニックなどを訪れると、先生がカジュアルな服装をしておられることも多い。実際、現在のクリニックでは薬品や血液などを扱うこともなく、さらにアクリル板で患者さんとの間は区切られているので、白衣を着る必要性はない。
しかし、ひーこ先生は、他のクリニック時代も含めて、以前からずっと白衣姿。左の袖には某医科大学のマークがある。

白衣にこだわりはない
 白衣に対して、もしかしたら何か医師としてのプライドが秘められているのかと想像し、ひーこ先生に、なぜ白衣なのかと尋ねると、なんのこだわりもないとの返答だった。以前から白衣を着ているし、病院でも他のクリニックでも周りの先生方も白衣や診察着だったので、違和感を持ったりすることもなかったようで、あえてこだわる理由を挙げるとすれば、体型が隠せるかららしい。秘密やこだわりを聞けるかと期待していたが、軽く肩透かしを食らった。
 逆に、何か素敵なユニフォームがあれば教えて欲しいと言われた。ひーこ先生に普段着のままで診察をするという発想はないようだ。白衣は仕事着のひとつで、診察をするときは仕事着に着替える。ONとOFFをきちんと分けているということらしい。ONのときは「ひーこ先生」で、OFFのときは「ひーこさん」。
 白衣を着たひーこ先生は、背筋も伸び、年齢を感じさせない聡明さとしっかりした口調で患者さんに向き合う。白衣を脱ぐと、心なしか背筋が・・・。白衣にこだわりはなくとも、白衣を着るとスイッチが入るようだ。白衣には、ひーこ先生を心療内科・精神科医師に変身させる、そんな不思議な秘密があるといえそうだ。

一人の人間として

早食いのデメリット 
 ひーこ先生は食べるスピードが普通の人に比べては速い。急な分娩対応に迫られることによる産婦人科医(元)としての職業グセなのか、若い頃からずっと続いているらしい。
 大食ではないが、普通の大人の量をしっかり食べきる。うなぎは好物ながら、基本的にあまり高価な食事は望まない。ただ、味には敏感で、美味しい場合は“美味しい”、美味しくないと感じた場合は“美味しくなかった”と比較的はっきり口に出す。早食いながら、しっかり味わって食べているようだ。
 早食いは脳の満腹中枢が刺激される前に食事を食べ終わってしまうので、食べ過ぎにつながったり、血液中の糖を急激に上昇させ血管内部にダメージを与えるため、それを繰り返すことで、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病や認知症、がんになるリスクも懸念され、デメリットが多いと言われる。また、高齢になると、よく噛んで食べないと誤嚥による肺炎の危険性が高まるので、とくに注意が必要だ。

ゆっくり食べている時間がない
 しかし、次女が作ってくれる昼のお弁当を美味しそうに食べる、ひーこ先生の姿を見ていると、なんとも微笑ましい。最近は午前の診察が15時ぐらいまで延びることが少なくないので、午後の診察開始まで間があまりなく、実際のところゆっくり食べている時間もない。昼食の時間が遅くなるので、“お腹は減りませんか?”と尋ねるが、“全然”とひーこ先生は答える。患者さんと接しているとあまり気にならないらしく、たまたま午前の診察が早めに終了した日には、かえって“お腹が減ったね”と言う。比較的昼の休憩時間があるときぐらい、ゆっくりお弁当を食べればいいが、時間があってもなくても、食べるスピードはあまり変わらない。
 口の中に食べ物が入っているときに、お茶を一口飲んでむせるときがあり、そのときはドキリとする。長年の習慣を変えるのは簡単ではないが、今からでも早食いは直してもらわないと心配ではある。ただ、数あるクリニックの中でひーこ先生のクリニックを選んで、勇気をもって来院してくださる患者さんの置かれた状況に少しでも応え、一人でも多くの患者さんと対したいというひーこ先生の希望を叶えようとすると、どうしても昼休みの時間は短くなりがち。なんとも悩ましいところだ。

一人の人間として

脳の若さを保つ所作に溢れている
 “メンタルヘルスx運動の第一人者が、心の不調に効く運動法について、最新科学のエビデンスに基づいて紹介する”と謳っている新刊書籍「うつ病は運動で消える~神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法」(ジェニファー・ハイズ(著)、ダイヤモンド社)の第5章「認知症を予防し、脳の若さを保つ」には、認知症リスクを下げ脳の若さを保つために、いかに運動の効用が高いか、が記されている。
 その内容を読んでいると、ひーこ先生の日頃の発想や言動は、認知症リスクを下げ、脳の若さを保つ所作に溢れていることを感じる。
 例えば、上記の書籍には、歳を取ると体力や気力が衰えるという加齢の固定観念が老化をまねく、あるいは認知症は心配したり、記憶力の衰えに意識を向けるほど思考力に悪影響が出て、認知の衰えは現実になるといった内容が記されているが、ひーこ先生は、本当に自身の年齢のことを考えていない。年齢のことを言われるのを嫌がるばかりでなく、年齢に関わらず脳は成長すると思っている。現在、日本精神神経学会や日本東洋医学会の専門医を取得しているが、4年ないし5年後の更新を見据えて講演会を視聴することを怠らない。
 また、否定的なことを考えたり、年齢の固定観念に囚われず、前向きなこと、新しいことにいつも関心を寄せている。患者さんにもよく“楽しいことを考えて!”と声掛けをするのは、自身がそのように考えているからのようである。
 余談ではあるが、ひーこ先生はSDSうつ病自己評価尺度といううつ病のスクリーニング簡易検査の20項目ほどの点数を足し算するスピードがすごぶる速い。少なくとも、近くにいる筆者よりも遥かに速い。

年配者の固定観念を持ち合わせていないよう
 加えて、上述の書籍では、“固定観念の脅威は、高齢者の身体能力にも影響を与えます。歩く速さのような基本的な能力すら変えてしまうのです。年配者は足が遅いという固定観念があります。この意見があまりにも強いため、多くの高齢者は固定観念の期待の低さに合わせるように、つい歩く速度が遅くなってしまうのです”と述べている。以前のブログでも書いたが、ひーこ先生は歩くスピードがなぜか速い。歩幅は狭いものの、なぜそんなに焦って歩くのですか?と聞きたくなるように足を動かして前に進む。気持ちが前を向いているが、やることがあるからなのか・・・。少なくとも、ひーこ先生は、年配者は足が遅いというような固定観念などは全く持ち合わせていないようだ。

2022年9月1日漢方専門医として

朝食は食べていますか?
 患者様にご記入いただいた問診票や適応状況アンケートを見ながら、ひーこ先生は患者様に対して、“朝食は食べていますか?”、“朝は陽の光を浴びていますか?”、“水分やミネラルは摂っていますか?”ということをよく尋ねる。20代、30代の女性が来院された場合は朝食のこと、60代以降の方が来院された場合は水分やミネラルの補給のことを尋ねることが多い。
 正確なデータは取っていないが、心身の不調を抱えている20代、30代の女性の多くが朝食を食べていないと答える。その場合、ひーこ先生は“牛乳一杯でもいいから朝食は必ず取ってくださいね。心の調子を整えるためにも朝食は大切ですよ”と答える。適度な栄養摂取、適度な休養が健康には大切、というメッセージの一つの表現のようである。
 不眠や不安な夜を過ごした朝は、どうしても身体は不調で、朝食を食べる気持ちにも状況にもないのかもしれないし、忙しくストレスフルな生活では朝食をゆっくり取ることも難しいかもしれないが、東洋医学の心身一如の考えからすると、心の調子を整えるために、逆に朝食をゆっくり取る時間をまず確保するところからリスタートしてみるというのも一案なのかもしれない。
 夜型の方や生活習慣が乱れ気味の場合には、“朝の陽の光を浴びるようにしてくださいね”とひーこ先生は伝える。生活習慣の見直しは、口で言うほど容易なことではないが、ひーこ先生は、漢方薬を朝食前に服薬をするように勧めるので、朝起きたら陽の光を浴びながら、漢方を飲んで朝食を食べて一日をスタートするきっかけにするという手段もあり得る。

心の不調も身体の不調もつながっている
 栄養や生活習慣のこと以外にも、ひーこ先生は、血圧の状態や舌の状態などからむくみの様子を診ながら、“食欲はありますか?”、“便通はどうですか?”、女性の方には生理痛や生理前のイライラについて尋ねる。最近はPMS(月経前症候群)に悩まれる方が多いと言われるが、心の不調がPMSと関連しているケースはごく一般的なように見受けられる。
 身体不調と心の不調のどちらが原因かはわからないが、PMSに限らず、心の不調とそれら身体症状はつながっているのか、心の不調を感じている方が何らかの身体不調も併せ持っている場合は多い。心も身体も両方の不調を、漢方で整えようという漢方医学の取り組みは理にかなっているようにみえる。

心療内科・精神科医として

話を聴いてくれるという患者様の感想
 最近、何回が通院していただいている患者様に、感想や改善点をお聞きすることがある。すると、一番多い感想が“話を聴いてくれる”、“親身になって診察してくれる”、“丁寧に対応してくれる”といったひーこ先生の診察時の姿勢に対するものだ。次に多いのが、“漢方が効いている”、“副作用の心配をあまりしなくていい”、“漢方薬の相談をできる”といった漢方処方に関するもの。
 もちろん、複数回通院されている患者様は、効用をそれなりに感じているから通院されているのであろうから、評価がある程度高くなる傾向にあるため、改善を本格的に検討するには、初診後に再診を希望されなかった患者様に感想を聞く必要があると思われる。実際、初診時に“話が噛み合わなかった”“話を聴いてもらえなかった”というご意見を伺うこともある。
 患者様がひーこ先生に話を聴いてもらっているという感想をもつのは、もちろん先生が一生懸命に患者様の話を聴こうとしているからではあるが、患者様がひーこ先生の話を聴こうという姿勢があるか、ひーこ先生が患者様の話を理解できるかという点も関わっているように感じられる。ある意味当たり前のことかもしれないが、つまり、患者様とひーこ先生との間である程度の信頼関係が築かれていると、先生も話のキャッチボールができるので、話の内容理解により一層努め、患者様の伝えたいことを理解したいと感じるように見受けられる。
 その意味で、感想として二番目に多い漢方処方を希望して来院される患者様の場合、ひーこ先生からの漢方薬の説明を聞こうとされる場合が多いので、話が噛み合いやすく、先生としても患者様の話を聞きやすいのかもしれない。
 
話が噛み合わなかったときは少し落ち込む
 逆に、カウンセリングのように、悩みごとや苦しい心の内をじっくり聴いてもらうことを期待して来院された場合は、ある程度限られた時間で、症状の改善のために何らかの漢方処方を出来ればと考えているひーこ先生との間では、うまく話が噛み合わず、患者様にとって不満を抱かれる場合も出てくる。
 話が噛み合わなかったときは、診察後のひーこ先生の姿を見ると、ある程度予想できる場合が多い。診療録メモを見つめながら、うまく診察できなかったとでも言いたげに、首を横に振りながら、少し元気がない様子に見受けられるからだ。
 そんな姿を見ているわけではないだろうに、一部の患者様のなかには、ひーこ先生の姿を見て、“かわいい”と言う方々もいる。色々な見方があるものだ。

一人の人間として

 高齢になると頑固になると言われる。その真偽のほどはわからないが、歳をとるにつれ、柔和にはなるものの発想や行動の幅に柔軟さは少なくなってくる方々が多いように感じられる。ひーこ先生の場合は、比較的柔軟に色々な意見を取り入れようと日々新しいことを学んでいるが、頑固な一面も時々のぞかせる。

できる限りで自分でやる
 一番多いのが、他人から日常生活上のお世話を受けようとするとき。ひーこ先生の年齢を考え、周りの人々は気遣って手伝おうとする場合が少なくないが、まだ自分でできるという思いが強いのか、お世話されることを断って自分でしようとすることが多い。
 例を挙げると、重たいカバンを肩にかけて、さらに手荷物も持っているので、“手荷物のほうだけでもお持ちましょうか”と声をかけても、“自分で持つ”と言って手荷物を他人に渡そうとしない。また、次女が作ってくれたお昼のお弁当をクリニックで食べたあと、弁当箱は他人の分まで自分で必ず洗う。他人は譲らない。老人扱いされたくない、できる限り世話にならずに自分でできることは自分でしたいという思いが強いように見える。さらには、クリニックからの帰りに、居室ビルのエレベータの昇降ボタンを押すのは自分の役割、という感じで他人には押させない。ご自身は消毒液を携帯しているので、コロナ禍での先生なりの気遣いらしい。ただ、ひーこ先生に昇降ボタン係をさせている光景はなんとも心落ち着かない。

自分で費用を払いたい
 世話になりたくないというのは金銭面でも感じられる。ひーこ先生は、食事に一緒に行けば、必ず自分が費用を出そうとする。ごちそうになるのは嫌なようだ。誰かしら訪問を受けたりすると、自身の子供相手でも必ずお土産を渡そうとする。“結構です”と丁重にお断りしても、手ぶらでは帰さないと心に決めているかのように渡そうとする。他人の世話にならず、費用も負担し、お土産も渡そうとすると、当然ながら収入が必要だ。ひーこ先生の、まだまだ働いていたい、頑張りたいという気持ちの奥には、もしかしたら自分で費用を払っていたいという思いもあるのかもしれない。

一人の人間として

 ひーこ先生の通勤手段は、市バスと徒歩だ。診療のある日は、重いカバンを肩からかけ、次女の作ってくれたお弁当を別の袋に入れて、一人で家を出る。最寄りのバス停までの2~300メートルを歩いてバスに乗り、クリニック近くのバス停で降りて、クリニックのあるビルまで歩く。 

無意識にいつも速く歩く
 歩くスピードはとても速く、中高年の成人男性とほぼ同じ速度である。どうもゆっくり歩くという考えは持ち合わせていないらしく、常に速い。ただ、加齢に伴い、腹筋が弱くなり、膝や股関節は固くなっているためか、多少背中が曲がったようなシルエットで少し前のめりに歩くので、雨や雪の日などは道路で転けないか、周りは心配になったりする。加齢に伴い、身長も10cm近く低くなっていて、歩幅も狭くなっているので、周りから見ると、余計に前のめりに早歩きをしているように見える。実際、雪の日にすべって尻もちをつき、尾てい骨を骨折したことがある。

歩くのが速い人は老化が遅い?
 しかし、周りが心配を実際に声にすると、ひーこ先生は心配ご無用といった返答をし、今日も変わらずスタスタと多少前のめりに歩いている。イギリスで40万人以上の遺伝子データと歩行ペースを分析した大規模な研究にの結果、運動量に関係なく「歩くのが速い人は老化が遅い」ということが示されたという記事を目にしたことがある(“Investigation of a UK biobank cohort reveals causal associations of self-reported walking pace with telomere length | Communications Biology” Nature 2022年4月号)。「歩く速度によって心疾患で死亡するリスクが変化する」ことや、「歩く速さと脳や体の老化には関係がある」ということも最近よく言われるが、ひーこ先生を見ていて、歩く速さは老化と関係しているかもしれない、と改めて考える。

日常生活の中で日々努力する姿は微笑ましい
 ひーこ先生は、バスに乗った場合も、多少人が立っていると座席に座らずに、手すりに捕まりながら立っていることがよくある。ご本人は“膝が痛い”とよく口にするし、以前に比べれば、少しでも長い距離を歩くと息が上がるようになり、思うようにいかない体にもどかしくなることもあるようだが、暑い中歩いて出勤し、ドアを開け、顔を真っ赤にしながら「おはようさん」と挨拶する姿は、微笑ましくもある。

心療内科・精神科医として

休憩時間を削って予約枠を拡げる
 開院半年を過ぎた2022年6月に入った頃ぐらいから、2週間先ぐらい先まで予約でいっぱいになるようになった。WEB予約のスケジュール表から見ると、予約不可を示すバツ印が並ぶ。しかし、患者さんの中には今すぐにでも診てほしいというご要望の方もあり、何とかならないかという電話相談が増えるようになった。
 電話で相談を受け緊急性が高いと思われる場合、ひーこ先生に相談すると、余程のことがない限り、“予約を受けてください”とあっさりと笑顔で答える。その結果、昼休みが大幅に少なくなったり、夜が遅くなったりするが、ひーこ先生に疲れた様子は見えない。おそらく、医師としては当然と考えているのだろう。
 朝9時ごろクリニックに出勤し、診療が遅くなると、夜クリニックを出るのが20時半ごろになることも少なくない。若くても体力的にはきついはずであるが、診察日のほうが休日よりも元気に見えるのは不思議だ。その姿を見て、正直に“90歳なのにすごいですね!”などと感嘆の声をあげると、かえってひーこ先生は機嫌が悪くなるので要注意だ。年齢のことは言われたくないという姿勢は徹底している。

診察や講演視聴は元気を維持する薬?
 漢方薬剤の各メーカーMR担当の方々からWEB講演や研修の案内が届くと、その当日にひーこ先生はその案内をざっと見る。興味のあるWEB講演をチェックし、届いた当日には参加登録をするのが常だ。講演は平日の昼休み時間や午後診終了後である場合が多いので、講演を視聴すると、昼休みがほぼなくなるか、もしくは夜がかなり遅くなるが、そんなことを気に留めている様子は見えない。無理をして体調を崩したりしないようにと周りは気を遣うが、ひーこ先生本人には、休み時間を削っているという感覚はあまりないようだ。逆に、ひーこ先生にとって診察や講演視聴は、元気を維持する薬のひとつなのかもしれない。

心療内科・精神科医として

心の病だけなく、患者さんの健康快復を願って漢方処方
 患者さんがクリニックや医者に求めるものはそれぞれ異なる。ある患者さんにとっては、ひーこ先生という存在は「心の病も女性特有の体調不良の相談に加えて、漢方薬の相談もできるなんて一石三鳥!」という場合もあるが、「他のクリニックで予約が取れないから仕方なく来院しただけであって、心の不調や不安、不眠で苦しい状態を今すぐに何とかしてほしい」という場合もある。そのような患者さんに対しても、ひーこ先生は、心の状態や睡眠の状態だけでなく、食事ができているか、朝食もしっかり食べているか、顔色、舌の状態、浮腫の有無など、患者さんの話を聞きながら気になる部分を診る。そして、漢方の“心身一如”の考えもあり、心の障害面だけでなく、内科的な症状の改善も同時に願って、浮腫の場合には浮腫改善の漢方も処方したりする。ひーこ先生にとっては、心に限らず、患者さんの心身の健康快復を願っての対応である。

余計な心配は不要と感じる患者さんもいる
 しかし、その対応を願わない患者さんもいる。願わないどころか不信感を持ち、周囲の色々な方に相談されるケースもある。「関係ない漢方薬を処方された」ということであろう。「うつ状態で悩んでいるのに、関係ないお薬を出すのはいかがなものか」などと周囲から言われたのか、患者さんも不安になって、ひーこ先生に不満をぶつけてこられるときがある。そんなことがあると、ひーこ先生も憤りを覚える。ひーこ先生としては都度説明して、インフォームド・コンセントの責務を果たして、患者さんに納得してもらっているつもりだから、なおさらであろう。
 ただ、少しでも早く安心したい、元気になりたい患者さんの立場に立てば、浮腫改善の漢方処方が余計に感じられたとしても、当然なのかもしれない。また、患者さんに納得してもらわなければ、説明責任を果たしたことにならないのも事実なので、ひーこ先生としては憤りの感情を収めて、一生懸命に自身を納得させようと努める。患者さんのことをいつも心配するひーこ先生にとって、心配することが余計なお世話になる場合もある、ということである。
 だからといって、ひーこ先生の心身の健康快復を願う姿勢は今日も変わらない。「朝食はちゃんと食べていますが?寝れるようになりましたか?それは良かったですね」と、今日もひーこ先生も笑顔で語りかける。憤ったとき、たまに独り言をブツブツとつぶやきはするが・・・。