第18話 憤りを超えて

心の病だけなく、患者さんの健康快復を願って漢方処方
 患者さんがクリニックや医者に求めるものはそれぞれ異なる。ある患者さんにとっては、ひーこ先生という存在は「心の病も女性特有の体調不良の相談に加えて、漢方薬の相談もできるなんて一石三鳥!」という場合もあるが、「他のクリニックで予約が取れないから仕方なく来院しただけであって、心の不調や不安、不眠で苦しい状態を今すぐに何とかしてほしい」という場合もある。そのような患者さんに対しても、ひーこ先生は、心の状態や睡眠の状態だけでなく、食事ができているか、朝食もしっかり食べているか、顔色、舌の状態、浮腫の有無など、患者さんの話を聞きながら気になる部分を診る。そして、漢方の“心身一如”の考えもあり、心の障害面だけでなく、内科的な症状の改善も同時に願って、浮腫の場合には浮腫改善の漢方も処方したりする。ひーこ先生にとっては、心に限らず、患者さんの心身の健康快復を願っての対応である。

余計な心配は不要と感じる患者さんもいる
 しかし、その対応を願わない患者さんもいる。願わないどころか不信感を持ち、周囲の色々な方に相談されるケースもある。「関係ない漢方薬を処方された」ということであろう。「うつ状態で悩んでいるのに、関係ないお薬を出すのはいかがなものか」などと周囲から言われたのか、患者さんも不安になって、ひーこ先生に不満をぶつけてこられるときがある。そんなことがあると、ひーこ先生も憤りを覚える。ひーこ先生としては都度説明して、インフォームド・コンセントの責務を果たして、患者さんに納得してもらっているつもりだから、なおさらであろう。
 ただ、少しでも早く安心したい、元気になりたい患者さんの立場に立てば、浮腫改善の漢方処方が余計に感じられたとしても、当然なのかもしれない。また、患者さんに納得してもらわなければ、説明責任を果たしたことにならないのも事実なので、ひーこ先生としては憤りの感情を収めて、一生懸命に自身を納得させようと努める。患者さんのことをいつも心配するひーこ先生にとって、心配することが余計なお世話になる場合もある、ということである。
 だからといって、ひーこ先生の心身の健康快復を願う姿勢は今日も変わらない。「朝食はちゃんと食べていますが?寝れるようになりましたか?それは良かったですね」と、今日もひーこ先生も笑顔で語りかける。憤ったとき、たまに独り言をブツブツとつぶやきはするが・・・。