第25話 早食いのクセ

早食いのデメリット 
 ひーこ先生は食べるスピードが普通の人に比べては速い。急な分娩対応に迫られることによる産婦人科医(元)としての職業グセなのか、若い頃からずっと続いているらしい。
 大食ではないが、普通の大人の量をしっかり食べきる。うなぎは好物ながら、基本的にあまり高価な食事は望まない。ただ、味には敏感で、美味しい場合は“美味しい”、美味しくないと感じた場合は“美味しくなかった”と比較的はっきり口に出す。早食いながら、しっかり味わって食べているようだ。
 早食いは脳の満腹中枢が刺激される前に食事を食べ終わってしまうので、食べ過ぎにつながったり、血液中の糖を急激に上昇させ血管内部にダメージを与えるため、それを繰り返すことで、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病や認知症、がんになるリスクも懸念され、デメリットが多いと言われる。また、高齢になると、よく噛んで食べないと誤嚥による肺炎の危険性が高まるので、とくに注意が必要だ。

ゆっくり食べている時間がない
 しかし、次女が作ってくれる昼のお弁当を美味しそうに食べる、ひーこ先生の姿を見ていると、なんとも微笑ましい。最近は午前の診察が15時ぐらいまで延びることが少なくないので、午後の診察開始まで間があまりなく、実際のところゆっくり食べている時間もない。昼食の時間が遅くなるので、“お腹は減りませんか?”と尋ねるが、“全然”とひーこ先生は答える。患者さんと接しているとあまり気にならないらしく、たまたま午前の診察が早めに終了した日には、かえって“お腹が減ったね”と言う。比較的昼の休憩時間があるときぐらい、ゆっくりお弁当を食べればいいが、時間があってもなくても、食べるスピードはあまり変わらない。
 口の中に食べ物が入っているときに、お茶を一口飲んでむせるときがあり、そのときはドキリとする。長年の習慣を変えるのは簡単ではないが、今からでも早食いは直してもらわないと心配ではある。ただ、数あるクリニックの中でひーこ先生のクリニックを選んで、勇気をもって来院してくださる患者さんの置かれた状況に少しでも応え、一人でも多くの患者さんと対したいというひーこ先生の希望を叶えようとすると、どうしても昼休みの時間は短くなりがち。なんとも悩ましいところだ。