第21話 ちょっと頑固な一面

 高齢になると頑固になると言われる。その真偽のほどはわからないが、歳をとるにつれ、柔和にはなるものの発想や行動の幅に柔軟さは少なくなってくる方々が多いように感じられる。ひーこ先生の場合は、比較的柔軟に色々な意見を取り入れようと日々新しいことを学んでいるが、頑固な一面も時々のぞかせる。

できる限りで自分でやる
 一番多いのが、他人から日常生活上のお世話を受けようとするとき。ひーこ先生の年齢を考え、周りの人々は気遣って手伝おうとする場合が少なくないが、まだ自分でできるという思いが強いのか、お世話されることを断って自分でしようとすることが多い。
 例を挙げると、重たいカバンを肩にかけて、さらに手荷物も持っているので、“手荷物のほうだけでもお持ちましょうか”と声をかけても、“自分で持つ”と言って手荷物を他人に渡そうとしない。また、次女が作ってくれたお昼のお弁当をクリニックで食べたあと、弁当箱は他人の分まで自分で必ず洗う。他人は譲らない。老人扱いされたくない、できる限り世話にならずに自分でできることは自分でしたいという思いが強いように見える。さらには、クリニックからの帰りに、居室ビルのエレベータの昇降ボタンを押すのは自分の役割、という感じで他人には押させない。ご自身は消毒液を携帯しているので、コロナ禍での先生なりの気遣いらしい。ただ、ひーこ先生に昇降ボタン係をさせている光景はなんとも心落ち着かない。

自分で費用を払いたい
 世話になりたくないというのは金銭面でも感じられる。ひーこ先生は、食事に一緒に行けば、必ず自分が費用を出そうとする。ごちそうになるのは嫌なようだ。誰かしら訪問を受けたりすると、自身の子供相手でも必ずお土産を渡そうとする。“結構です”と丁重にお断りしても、手ぶらでは帰さないと心に決めているかのように渡そうとする。他人の世話にならず、費用も負担し、お土産も渡そうとすると、当然ながら収入が必要だ。ひーこ先生の、まだまだ働いていたい、頑張りたいという気持ちの奥には、もしかしたら自分で費用を払っていたいという思いもあるのかもしれない。