第16話 閑話2

片付けが不得手 
 誰にでも不得手はある。ご多分に漏れず、ひーこ先生にも不得意なものがある。片付けが得意ではない。
 専業主婦時代は、毎朝夫の歯科診療の準備を消毒からこなしていたので、掃除や片付けが嫌いなようには見えないが、細かく収納場所を決めてまめに片付けるということはしない。性格が大らかであることも影響しているように思われるが、専門書籍などの本は平積みされていることが多い。「どこに何があるかはわかっている」「収納棚や本棚があれば片付く」と本人は話すが、収納棚などを置くスペースがないため、平積みの本を一旦片付けてからということになるので、実際のところあまり収納は進まない。なぜスペースがないのか。

物を捨てない
 物を捨てないから。片付けが不得手な最大の要因が“捨てない”ことだと思われる。ひーこ先生は「もったいない」という言葉をよく口にする。戦中戦後の物が無い時代を過ごした経験からかもしれない。しかし、宅配便で届いた荷物の梱包用ダンボールをとっておく。贈り物でのしが付いていれば、のしもとっておいたりする。さらには、A4の大きさの使用済み封筒なども大切にとってある。子供の40年以上前の学生時代の制服も保管している。本人に尋ねると「誰かその学校に行くかもしれないし、そのときはあげようと思って」という回答が返ってきた。大切な気持ちだが、果たして40年以上も前の制服が今の子供に必要になる機会があるのか。
 当然のように、書籍関係も捨てないで置いてある。何十年も以前の専門誌も。スペースは狭まるばかり。古紙回収に出したり、古本屋に委託するということをしない。ましてやメルカリに出品することは頭の中にもない。
 ただ、色々なものを保管しているので、ごく稀に助かる場合がある。そのことに対して感謝の意を表すと、「ほら役に立つでしょ?」とでも言わんばかりの微笑みを浮かべ、子どもたちが何かを捨てようとすると悲しい顔をする。
 そんなひーこ先生の姿を見て、子どもたちの片付け上手下手は二つに分かれる。似る子ども、反面教師になる子ども。ただ、世の子どもたちの多くが「早く片付けなさい!」と母親から怒られている場面を見聞きするが、そのような場面に遭遇したことがないことは、ひーこ先生の子どもたちにとって幸せだったと言えるのかもしれない。