第3話 母として祖母として

2022年3月19日

 ひーこ先生には7人の子供がいる。孫は14人、ひ孫が1人いる。7人の子供の内訳は、男3人、女4人。全員が健在だ。ただ、夫には14年前に先立たれた。

夫に先立たれ、借金も引き継ぐ
 野球が好きだった夫は、家族で野球チームを作りたい(実際、家族9人で人数的野球チームは成立することになった)と笑って言った。歯科医として子供の養育費を必死に稼いだ。子供には勉強しろとは一切言わなかったが、医大、歯科大にも子供を送り出した。しかし、歯科医師会の重責などが身体に負担になったのか、ガンを患い、多くの人に惜しまれながらこの世を去った。夫が亡くなったとき、多額の借金が残っており、そのすべてをひーこ先生が引き継いだが、開業までにひーこ先生はその借金をほぼ返済していた。

家に帰るとひ孫の写真に癒やされる「ひーこさん」
 ひーこ先生はクリニックでは白衣を着て、しっかりした優しい医師に見えるが、家に帰ると「ひーこさん」と家族の呼び名も変わる。ひーこ先生本人はおばあちゃんと言われることを嫌がるが、帰宅すると、おばあちゃんの姿に変わる。iPhoneの待受画面のひ孫の写真を見てほっこりするのが日課である。日々送られてくる、1歳になったひ孫の成長している姿を見ているときのひーこさんの顔は、恋人の写真を見ているかのように笑っている。

いつも子供や孫たちのことを心配している心優しい母、そして祖母
 常日頃、ひーこ先生は、“私は子供たちが全員今も健在で、大きな病気もなく過ごせていることだけでも恵まれていると思う”ということを口癖のように話す。ただ、実際は子供たちや孫、ひ孫のことをいつも心配して、LINEでメッセージを送ったり、プレゼントや食べ物を贈ったりする普通のおばあちゃんだ。だが、時々注文し過ぎたり、気を回しすぎたりして、子供たちから怒られたりする。そんなときはひどく落ち込むが、しばらくすると同じことを繰り返している。周りから観察していると、これだけ子供や孫たちのことを気にするから、ボケないのかもしれない、と思うくらいである。