第14話 マイナスは明日の成長の糧に
診療内容に合わない患者さんもいる
ひーこ先生に励まされる患者さんがいる一方で、診察内容に合わない、あるいは満足できない患者さんもいる。
ひーこ先生の基本的な診察スタイルは、患者さんの話を一生懸命に聴いた上で治療方針を立て、治療もしくは症状の緩和のために、その時点で最善と見立てた薬剤(主に漢方薬)を処方するというものである。将来的にカウンセリングを取り入れたいという夢は持っているが、現時点では認知行動療法やカウンセリングには対応していない。薬に頼らずに何とか症状が良くなることを期待される患者さんの中には、納得がいかない方もいる。また、漢方薬は即効性より全体的な体調を整えながら徐々に効いていく場合が多いので、即効性を期待される患者さんには物足りない場合もある。
また、発達障害や拒食症・過食症、児童/思春期精神治療なども専門外なので、コロナ禍などで自宅に引きこもり困っておられる親子さんの要望にもなかなか応えられない。
当然ではあるが、高齢のひーこ先生を見て、人生も含めて経験の豊かさに希望に感じる人もいれば、逆に不安を抱く方もいるだろう。高音域の子音の聴き取り能力が加齢に伴って落ちるため、本人はそれをカバーすべく、診察時は通常の会話よりも一生懸命に聴き取ろうと努力しているが、聴き取り漏れもあることは想像できる。患者さんへの口調は優しいが、必要だと考えたことは明確に患者さんに伝えようとするので、励まされる患者さんがいる一方で、ストレートな意見に引っ掛かりを覚える患者さんもいるかもしれない。
マイナスなことは明日の成長の糧に、出来る限りの診療を心がける
“すべての症状に対応することは難しいし、過度な期待をされても却って患者さんに迷惑をかけるから”と、ひーこ先生は背伸びはせず自然体を心掛ける。自身が処方した漢方薬を信じて服用してくれる患者さんを前に、患者さんの改善した姿を思い描きながら、ひーこ先生は今日も漢方薬を処方し、“服用を継続してくれれば必ず良くなる。まずは飲んでみてください”と語りかける。
そうは言いながらも、治療が完了しないまま来院しなくなった患者さんのことが気になるのか、“処方した薬を飲んでもらえていたらいいね”、“他で通院して元気になっていたらいいね”と語りつつも、カルテを眺めながら、漢方薬関連の書物や精神治療等の雑誌論文、講演会で学んだことを読み返して、“この処方のほうが良かったかも”とつぶやく。ひーこ先生としても、寂しさを多少なりとも抱いているはずだ。しかし、そんな素振りはあまり見せない。
念のため“漢方薬の効用を説明する前に、治療方針をきちんと伝えて患者さんの了解を取ることを忘れないようにしないといけないですね”と年下のスタッフから言われても、“そうだね”と素直に受け入れて実践している。色々な想いを抱きながら、マイナスなことがあっても明日の成長に糧にしている。
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