一人の人間として

新幹線に乗って横浜から受診された患者さんに感嘆する「ひーこ先生」 
 今年1月中旬にひーこ先生が人生初のエッセイ本を発刊したことは以前に書いたが、いつの間にか増刷を重ねている。京都新聞にインタビュー記事が出たり、出版社の好意もあって書籍の新聞広告が地方新聞を中心に掲載されたり(3月には毎日新聞にも掲載)して、少しずつでも全国各地でひーこ先生のファン?が増えている模様である。
 先日は、横浜から新幹線でクリニックに受診にお越しになった方もいた。書籍の内容に感銘を受け、”是非直接お会いしたい”ということで、受診のご予約をした上でご来院されたことには、正直ひーこ先生も驚いた。何かに強いこだわりを持ったりすることのほとんどない先生は、誰かのファンになったりすることがほぼないので、”推し”もいなければ、尊敬する誰かの足跡を辿ったりというようなことも全くない。そのため、「横浜からわざわざ新幹線でお越しになるなんてビックリ!すごいよね」と、ひとしきり感嘆の声を上げていた。
 受診の際に、書籍を持参され、”サインをお願いします”という方もいらっしゃる。そんなときは、嫌がらずにサインをしているようだ。

実際に会って何か生きる力、前進する勇気を得てもらえば有り難い
 書籍を読んで受診された方々が実際にひーこ先生に会って、どのような感想をお持ちになったかはわからない。”90歳なんてとても見えず、若々しくて本当に驚きました”、”漢方の話をされるときはあまりにエネルギッシュで圧倒されました”、”刺激を受けました。私も頑張ろうと思いました”、”書籍で書かれていることが自分に対して書かれているのではないかと思うほど、いちいち納得できたので、先生に相談したかったのですが、相談できて本当に良かったです”などといった言葉をいただくが、ひーこ先生に実際に会って、何か生きる力、前進する勇気を少しでも得ていただけるとしたら、先生にとっても有り難いことのようだ。

普段と全く変わらず、どの漢方が最適かを一生懸命に考える
 ただ、ひーこ先生は、多少なりとも反響があって書籍を読んで来院される患者様が増えたことは理解しているものの、自分から書籍のことをほとんど話題にすることはない。それは京都新聞の新聞記事の場合と全く同様である。人に自慢話をしたりしないだけでなく、書籍を読んできたという患者さんに対しても、書籍の感想などを尋ねることなどせず、普段と変わらない診察を行う。患者さんの受診のキッカケが何であれ、患者さんが訴える症状に対して、どの漢方が一番最適だろうと一生懸命に考えて患者さんに話す姿が今日もクリニックにある。

心療内科・精神科医として

しばらく様々な反響が続いた 
 令和5年2月6日付けの京都新聞朝刊にひーこ先生のインタビュー記事が比較的大きく掲載されたことは先日書いたが、その反響は少なからず続いた。一週間ぐらいはクリニックのホームページの閲覧数が一気に増えたたほか、Webや電話を通じて受診の予約や問い合わせが相次いだ。クリニックの受付は応対にあたふたする日々が続き、苦笑いを浮かべるときもあった。
 長女の小学校時代の担任の先生から、”懐かしい”ということでご連絡をいただくこともあった。”下鴨”という土地に懐かしさを感じられる方からのご連絡も頂戴した。治療をしたいというよりは、一目会って話がしたいという理由で受診されるケースもあった。しかし、やはりメインは、今までずっと心身の不調を我慢をしてきたが、漢方で良くなるなら・・・と初めて心療内科の門をたたく方、精神科に通っているがなかなか良くならないので光を求めてお越しになる方、そして、家族の心身の不調を相談できるのではないかと相談先を求めてお出でになる方々であった。抗不安薬や睡眠導入剤への依存から抜け出したいという方も漢方への移行に希望を抱いてお越しになる。

新聞記事に大きく取り上げられたことを忘れたかのように、普段通りの「ひーこ先生
 ひーこ先生は、反響があることに悪い気はしていないのだろうが、元々目立ちたい性格ではないこともあり、自分から新聞記事のことをほとんど話題にしない。インタビューに慣れているタレントや学者の方なら、一つ一つの記事を話題にしないというのも納得できるのだが、初めて大きく記事に取り上げられたら、凡人なら”どうだった?”等と周りに感想を求めたりするのが普通のように感じるが、人に自慢したりしないばかりか、新聞記事を読んできたという患者さんに対しても、新聞記事の感想などを聞いたりはせず、普段と変わらない診察を行う。周りから見ていて、もしかして先生は新聞記事に取り上げられたことを忘れているのでは?と思うくらいだ。患者さんがたとえ興味本位で受診されたとしても、患者さんが訴える症状に対して、どの漢方が一番最適だろうと一生懸命に考えて患者さんに話す姿が、いつにも増して輝いているように見えた。

心療内科・精神科医として

 先日6日に京都新聞朝刊の「来た道 行く道」という福祉ページにひーこ先生のインタビュー記事が掲載された。その記事には、主に大学を出た頃から漢方心療内科を開業するまでのひーこ先生の半生の要約、そして今後の抱負などが比較的わかりやすく書かれている。先生の写真も含めて、4段組みで結構大きめの取り扱いだったからか、ホームページへのアクセス数も一時的ではあるが、通常日の20倍近くになり、加えて電話での問い合わせも少なくない。受診のための相談問い合わせから、息子娘、孫の相談、さらには先生に会ってみたいというアイドルのような問い合わせもある。嬉しい反面、少しイメージが先行している面もありそうだ。

苦手なインタビューを受ける
 ひーこ先生は、元々表に出たい性格タイプではないこともあり、インタビューを受けることはどちらかと言えば苦手だ。インタビュー前日まで憂鬱な気分を少なからず抱えて、クリニックに通っていた。「どんなことを話せばいい?」「何を聞かれるのだろう?」「周りの方々に偉そうにインタビュー記事なんかに出て・・・とか言われない?」等と不安な気持ちを時々言葉にしていた。本当は断わりたかったようだが、お世話になった方からのご紹介でもあったからか、インタビューには誠実かつ丁寧に答えていた。写真に写るのも実は苦手だが、インタビューアーの要求通り素直に笑顔で応えた。普段なら話さないようなプライベートな話題にも実直に対応していたのがとても印象的だった。

インタビュー後はご本人は結構あっさり
 インタビュー前は不安でいっぱいという感じに見えたが、記事掲載後は結構あっさりしているから不思議だ。写真写りがイマイチだと自己評価する以外は、「思っていたよりも大きめの扱いだったねぇ」と話すだけで、周りの反応はあまり気にしていない様子。インタビューが終わった時点で、新聞記事のことはもう終わっていて、ひーこ先生の関心は、もう次に移っていたのかもしれない。周りは、その後の問い合わせなどに追われているのだが。

インタビュー記事にご関心のある方は、以下をご参照ください。
https://fukushi.kyoto-np.co.jp/column/kitaiku/230206.html

心療内科・精神科医として

白衣を着て診察するひーこ先生
 ひーこ先生は白衣を着て診察する。病院では白衣や診察着の先生が多いが、他の精神科クリニックなどを訪れると、先生がカジュアルな服装をしておられることも多い。実際、現在のクリニックでは薬品や血液などを扱うこともなく、さらにアクリル板で患者さんとの間は区切られているので、白衣を着る必要性はない。
しかし、ひーこ先生は、他のクリニック時代も含めて、以前からずっと白衣姿。左の袖には某医科大学のマークがある。

白衣にこだわりはない
 白衣に対して、もしかしたら何か医師としてのプライドが秘められているのかと想像し、ひーこ先生に、なぜ白衣なのかと尋ねると、なんのこだわりもないとの返答だった。以前から白衣を着ているし、病院でも他のクリニックでも周りの先生方も白衣や診察着だったので、違和感を持ったりすることもなかったようで、あえてこだわる理由を挙げるとすれば、体型が隠せるかららしい。秘密やこだわりを聞けるかと期待していたが、軽く肩透かしを食らった。
 逆に、何か素敵なユニフォームがあれば教えて欲しいと言われた。ひーこ先生に普段着のままで診察をするという発想はないようだ。白衣は仕事着のひとつで、診察をするときは仕事着に着替える。ONとOFFをきちんと分けているということらしい。ONのときは「ひーこ先生」で、OFFのときは「ひーこさん」。
 白衣を着たひーこ先生は、背筋も伸び、年齢を感じさせない聡明さとしっかりした口調で患者さんに向き合う。白衣を脱ぐと、心なしか背筋が・・・。白衣にこだわりはなくとも、白衣を着るとスイッチが入るようだ。白衣には、ひーこ先生を心療内科・精神科医師に変身させる、そんな不思議な秘密があるといえそうだ。

心療内科・精神科医として

話を聴いてくれるという患者様の感想
 最近、何回が通院していただいている患者様に、感想や改善点をお聞きすることがある。すると、一番多い感想が“話を聴いてくれる”、“親身になって診察してくれる”、“丁寧に対応してくれる”といったひーこ先生の診察時の姿勢に対するものだ。次に多いのが、“漢方が効いている”、“副作用の心配をあまりしなくていい”、“漢方薬の相談をできる”といった漢方処方に関するもの。
 もちろん、複数回通院されている患者様は、効用をそれなりに感じているから通院されているのであろうから、評価がある程度高くなる傾向にあるため、改善を本格的に検討するには、初診後に再診を希望されなかった患者様に感想を聞く必要があると思われる。実際、初診時に“話が噛み合わなかった”“話を聴いてもらえなかった”というご意見を伺うこともある。
 患者様がひーこ先生に話を聴いてもらっているという感想をもつのは、もちろん先生が一生懸命に患者様の話を聴こうとしているからではあるが、患者様がひーこ先生の話を聴こうという姿勢があるか、ひーこ先生が患者様の話を理解できるかという点も関わっているように感じられる。ある意味当たり前のことかもしれないが、つまり、患者様とひーこ先生との間である程度の信頼関係が築かれていると、先生も話のキャッチボールができるので、話の内容理解により一層努め、患者様の伝えたいことを理解したいと感じるように見受けられる。
 その意味で、感想として二番目に多い漢方処方を希望して来院される患者様の場合、ひーこ先生からの漢方薬の説明を聞こうとされる場合が多いので、話が噛み合いやすく、先生としても患者様の話を聞きやすいのかもしれない。
 
話が噛み合わなかったときは少し落ち込む
 逆に、カウンセリングのように、悩みごとや苦しい心の内をじっくり聴いてもらうことを期待して来院された場合は、ある程度限られた時間で、症状の改善のために何らかの漢方処方を出来ればと考えているひーこ先生との間では、うまく話が噛み合わず、患者様にとって不満を抱かれる場合も出てくる。
 話が噛み合わなかったときは、診察後のひーこ先生の姿を見ると、ある程度予想できる場合が多い。診療録メモを見つめながら、うまく診察できなかったとでも言いたげに、首を横に振りながら、少し元気がない様子に見受けられるからだ。
 そんな姿を見ているわけではないだろうに、一部の患者様のなかには、ひーこ先生の姿を見て、“かわいい”と言う方々もいる。色々な見方があるものだ。

心療内科・精神科医として

休憩時間を削って予約枠を拡げる
 開院半年を過ぎた2022年6月に入った頃ぐらいから、2週間先ぐらい先まで予約でいっぱいになるようになった。WEB予約のスケジュール表から見ると、予約不可を示すバツ印が並ぶ。しかし、患者さんの中には今すぐにでも診てほしいというご要望の方もあり、何とかならないかという電話相談が増えるようになった。
 電話で相談を受け緊急性が高いと思われる場合、ひーこ先生に相談すると、余程のことがない限り、“予約を受けてください”とあっさりと笑顔で答える。その結果、昼休みが大幅に少なくなったり、夜が遅くなったりするが、ひーこ先生に疲れた様子は見えない。おそらく、医師としては当然と考えているのだろう。
 朝9時ごろクリニックに出勤し、診療が遅くなると、夜クリニックを出るのが20時半ごろになることも少なくない。若くても体力的にはきついはずであるが、診察日のほうが休日よりも元気に見えるのは不思議だ。その姿を見て、正直に“90歳なのにすごいですね!”などと感嘆の声をあげると、かえってひーこ先生は機嫌が悪くなるので要注意だ。年齢のことは言われたくないという姿勢は徹底している。

診察や講演視聴は元気を維持する薬?
 漢方薬剤の各メーカーMR担当の方々からWEB講演や研修の案内が届くと、その当日にひーこ先生はその案内をざっと見る。興味のあるWEB講演をチェックし、届いた当日には参加登録をするのが常だ。講演は平日の昼休み時間や午後診終了後である場合が多いので、講演を視聴すると、昼休みがほぼなくなるか、もしくは夜がかなり遅くなるが、そんなことを気に留めている様子は見えない。無理をして体調を崩したりしないようにと周りは気を遣うが、ひーこ先生本人には、休み時間を削っているという感覚はあまりないようだ。逆に、ひーこ先生にとって診察や講演視聴は、元気を維持する薬のひとつなのかもしれない。

心療内科・精神科医として

心の病だけなく、患者さんの健康快復を願って漢方処方
 患者さんがクリニックや医者に求めるものはそれぞれ異なる。ある患者さんにとっては、ひーこ先生という存在は「心の病も女性特有の体調不良の相談に加えて、漢方薬の相談もできるなんて一石三鳥!」という場合もあるが、「他のクリニックで予約が取れないから仕方なく来院しただけであって、心の不調や不安、不眠で苦しい状態を今すぐに何とかしてほしい」という場合もある。そのような患者さんに対しても、ひーこ先生は、心の状態や睡眠の状態だけでなく、食事ができているか、朝食もしっかり食べているか、顔色、舌の状態、浮腫の有無など、患者さんの話を聞きながら気になる部分を診る。そして、漢方の“心身一如”の考えもあり、心の障害面だけでなく、内科的な症状の改善も同時に願って、浮腫の場合には浮腫改善の漢方も処方したりする。ひーこ先生にとっては、心に限らず、患者さんの心身の健康快復を願っての対応である。

余計な心配は不要と感じる患者さんもいる
 しかし、その対応を願わない患者さんもいる。願わないどころか不信感を持ち、周囲の色々な方に相談されるケースもある。「関係ない漢方薬を処方された」ということであろう。「うつ状態で悩んでいるのに、関係ないお薬を出すのはいかがなものか」などと周囲から言われたのか、患者さんも不安になって、ひーこ先生に不満をぶつけてこられるときがある。そんなことがあると、ひーこ先生も憤りを覚える。ひーこ先生としては都度説明して、インフォームド・コンセントの責務を果たして、患者さんに納得してもらっているつもりだから、なおさらであろう。
 ただ、少しでも早く安心したい、元気になりたい患者さんの立場に立てば、浮腫改善の漢方処方が余計に感じられたとしても、当然なのかもしれない。また、患者さんに納得してもらわなければ、説明責任を果たしたことにならないのも事実なので、ひーこ先生としては憤りの感情を収めて、一生懸命に自身を納得させようと努める。患者さんのことをいつも心配するひーこ先生にとって、心配することが余計なお世話になる場合もある、ということである。
 だからといって、ひーこ先生の心身の健康快復を願う姿勢は今日も変わらない。「朝食はちゃんと食べていますが?寝れるようになりましたか?それは良かったですね」と、今日もひーこ先生も笑顔で語りかける。憤ったとき、たまに独り言をブツブツとつぶやきはするが・・・。

心療内科・精神科医として

座右の銘や尊敬する歴史上の人物はない
 先日、ある方がひーこ先生に「座右の銘は何かおありですか?」と尋ねられたが、ひーこ先生からの回答は「特には何もありません」と素っ気なかった。あとで「本当に座右の銘はないのですか?」と確認したが、やはり特にはないらしい。尊敬する歴史上の人物や影響を受けた先人の書物も特にはない。特定の信仰を持っているわけでもない。ひーこ先生の価値観を探ろうとする人にとっては、暖簾に腕押しのようで捉えどころがない。しかし、ひーこ先生本人は口にしないが、影響を受けている書籍や先達・先輩の生き方は様々にある。

影響を受けた高橋幸枝先生の「こころの匙加減」
 その一人が、一昨年103歳で永眠されたが、それまで100歳を超えても現役精神科女性医師として最前線で活躍された、神奈川県にある秦和会・秦野病院の前理事長、高橋幸枝先生である。高橋先生は海軍のタイピンストを経て33歳から医者の道を志し、50歳を超えて神奈川県秦野に精神科病院を立て、地域医療に尽力された。その生き方・考え方は「こころの匙加減」(飛鳥新社発行)という書籍等に記されており、ひーこ先生はその書籍を読み、大いに勇気づけられた。高橋先生の経歴にタイピストがあることも、ひーこ先生自身の病理学教室時代の姿と重ね合わせるところがあったのか、読了した後しばらくは、高橋先生の話ばかりをしていた。
 もちろん、ひーこ先生は自らのクリニックを開業したばかりで、専業主婦時代に医師としてのブランクも経験し、高橋先生のようにキリスト者でもなければ、院長としての大きな実績を持っているわけでもない。しかし、100歳でも現役医師として社会の役に立つという現実的イメージを抱いたのは、高橋先生の影響が少なからずあると思われる。

自然体で生きる
 雑誌「サライ」(小学館発行)のインタビュー記事のなかで、高橋先生が「90歳を過ぎた時から、世間はいろいろと話題にしてくださるのだけれど、特に自慢できるようなことなんてないんですよ。医者という仕事を、人より少し長くやってきた。ただそれだけです」と語っておられるが、ひーこ先生も同じように、常日頃「自慢できる特別なことなど何もない。ただ、目の前の患者さんに一生懸命に対してきただけ」という言葉を繰り返す。“自然体”という言葉が二人から思い浮かんでくる。

2022年6月7日心療内科・精神科医として

診療内容に合わない患者さんもいる
 ひーこ先生に励まされる患者さんがいる一方で、診察内容に合わない、あるいは満足できない患者さんもいる。
 ひーこ先生の基本的な診察スタイルは、患者さんの話を一生懸命に聴いた上で治療方針を立て、治療もしくは症状の緩和のために、その時点で最善と見立てた薬剤(主に漢方薬)を処方するというものである。将来的にカウンセリングを取り入れたいという夢は持っているが、現時点では認知行動療法やカウンセリングには対応していない。薬に頼らずに何とか症状が良くなることを期待される患者さんの中には、納得がいかない方もいる。また、漢方薬は即効性より全体的な体調を整えながら徐々に効いていく場合が多いので、即効性を期待される患者さんには物足りない場合もある。
 また、発達障害や拒食症・過食症、児童/思春期精神治療なども専門外なので、コロナ禍などで自宅に引きこもり困っておられる親子さんの要望にもなかなか応えられない。
 当然ではあるが、高齢のひーこ先生を見て、人生も含めて経験の豊かさに希望に感じる人もいれば、逆に不安を抱く方もいるだろう。高音域の子音の聴き取り能力が加齢に伴って落ちるため、本人はそれをカバーすべく、診察時は通常の会話よりも一生懸命に聴き取ろうと努力しているが、聴き取り漏れもあることは想像できる。患者さんへの口調は優しいが、必要だと考えたことは明確に患者さんに伝えようとするので、励まされる患者さんがいる一方で、ストレートな意見に引っ掛かりを覚える患者さんもいるかもしれない。

マイナスなことは明日の成長の糧に、出来る限りの診療を心がける
 “すべての症状に対応することは難しいし、過度な期待をされても却って患者さんに迷惑をかけるから”と、ひーこ先生は背伸びはせず自然体を心掛ける。自身が処方した漢方薬を信じて服用してくれる患者さんを前に、患者さんの改善した姿を思い描きながら、ひーこ先生は今日も漢方薬を処方し、“服用を継続してくれれば必ず良くなる。まずは飲んでみてください”と語りかける。
 そうは言いながらも、治療が完了しないまま来院しなくなった患者さんのことが気になるのか、“処方した薬を飲んでもらえていたらいいね”、“他で通院して元気になっていたらいいね”と語りつつも、カルテを眺めながら、漢方薬関連の書物や精神治療等の雑誌論文、講演会で学んだことを読み返して、“この処方のほうが良かったかも”とつぶやく。ひーこ先生としても、寂しさを多少なりとも抱いているはずだ。しかし、そんな素振りはあまり見せない。
 念のため“漢方薬の効用を説明する前に、治療方針をきちんと伝えて患者さんの了解を取ることを忘れないようにしないといけないですね”と年下のスタッフから言われても、“そうだね”と素直に受け入れて実践している。色々な想いを抱きながら、マイナスなことがあっても明日の成長に糧にしている。

2022年6月1日心療内科・精神科医として

ひーこ先生に励まされる患者さん
 ひーこ先生のクリニックを訪れる患者さんは女性が圧倒的に多い。
 患者さんの来院理由では「漢方薬の処方を希望して」というものが最も多い。「女性特有の体調不良の相談」というものも多いが、「経験が豊富そうだから」「女性医師なので」という理由も聞く。「ホームページや紹介サイトの写真を見て、安心して話せそう」「サイトの写真の笑顔がステキで」「サイト写真が優しそう」というひーこ先生の写真の笑顔に惹かれて、というものもある。
 「近くの薬局に相談したら、じっくり話を聴いてくれるはず」ということで来院された場合もあった。受診してみて実際はいかがでしたか?と尋ねてみると、「ちゃんと話を聴いてもらえたので」という答えが返ってきた。薬局の方を嘘つきにせずに済んだようである。
 殆どの場合、来院されるまでひーこ先生の実際の年齢を知る人はいない。しかし、何歳なのだろうと関心を持ってブログやWeb上の紹介記事を読み、実年齢を知って再診に訪れる患者さんが少なからずいる。「とても90歳には見えない」と言って驚くとともに、「先生に逆に励まされました。私も頑張らないと」と笑顔でクリニックを後にする。
 高齢の母親を連れてこられた中年女性は「母を連れてきて本当に良かった。母が“私もしっかりしないと”って自分から言ってくれました」と目に一杯涙を溜めながら語った。初診のときは生きる希望がないと話して娘に連れられてきた別の高齢女性が、いつの頃からか遠くから自分ひとりで来院するようになり、ひーこ先生の前で「栄養に気をつけて食事をするようになりました」と話すようになった。

患者さんに元気をもらうひーこ先生
 一方で、ひーこ先生自身も患者さんの話に一生懸命に耳を傾け、漢方薬の効用を語りながら、患者さんから元気をもらっているようにも見える。開院前後心配が絶えなかった頃と比べて、愚痴にも聞こえる話がめっきり減った。声にも心なしかハリがあるようにも感じる。患者さんがクリニックを出た後、「前回より笑顔が増えた」「多少寝れるようになって良かった」とつぶやくひーこ先生の横顔は何となく嬉しそうだ。
 ある日、午前の診療時間がかなり延びて、午後診療の開始時間までの休憩時間がとても短くなった。ひーこ先生は、顔色一つ変えずに、その休憩時間を紹介状や診断書を書く時間にあてた。夜7時半ごろ、その日の最後の患者さんに「お大事にね」と声をかけて送り出したあと、一息つく暇もなく、昼間自分で洗った弁当箱を拭きながら片づけ始めた。「今日はたくさん患者さんを診たので疲れたでしょう?」と尋ねると、「たしかに頑張ったねぇ」とひーこ先生は笑顔で答えた。本当にタフだ。
 もちろん、良い場面ばかりではない。ひーこ先生と合わないと感じる患者さんもいる。