ひーこ先生の通勤手段は、市バスと徒歩だ。診療のある日は、重いカバンを肩からかけ、次女の作ってくれたお弁当を別の袋に入れて、一人で家を出る。最寄りのバス停までの2~300メートルを歩いてバスに乗り、クリニック近くのバス停で降りて、クリニックのあるビルまで歩く。
無意識にいつも速く歩く
歩くスピードはとても速く、中高年の成人男性とほぼ同じ速度である。どうもゆっくり歩くという考えは持ち合わせていないらしく、常に速い。ただ、加齢に伴い、腹筋が弱くなり、膝や股関節は固くなっているためか、多少背中が曲がったようなシルエットで少し前のめりに歩くので、雨や雪の日などは道路で転けないか、周りは心配になったりする。加齢に伴い、身長も10cm近く低くなっていて、歩幅も狭くなっているので、周りから見ると、余計に前のめりに早歩きをしているように見える。実際、雪の日にすべって尻もちをつき、尾てい骨を骨折したことがある。
歩くのが速い人は老化が遅い?
しかし、周りが心配を実際に声にすると、ひーこ先生は心配ご無用といった返答をし、今日も変わらずスタスタと多少前のめりに歩いている。イギリスで40万人以上の遺伝子データと歩行ペースを分析した大規模な研究にの結果、運動量に関係なく「歩くのが速い人は老化が遅い」ということが示されたという記事を目にしたことがある(“Investigation of a UK biobank cohort reveals causal associations of self-reported walking pace with telomere length | Communications Biology” Nature 2022年4月号)。「歩く速度によって心疾患で死亡するリスクが変化する」ことや、「歩く速さと脳や体の老化には関係がある」ということも最近よく言われるが、ひーこ先生を見ていて、歩く速さは老化と関係しているかもしれない、と改めて考える。
日常生活の中で日々努力する姿は微笑ましい
ひーこ先生は、バスに乗った場合も、多少人が立っていると座席に座らずに、手すりに捕まりながら立っていることがよくある。ご本人は“膝が痛い”とよく口にするし、以前に比べれば、少しでも長い距離を歩くと息が上がるようになり、思うようにいかない体にもどかしくなることもあるようだが、暑い中歩いて出勤し、ドアを開け、顔を真っ赤にしながら「おはようさん」と挨拶する姿は、微笑ましくもある。