心療内科・精神科医として

座右の銘や尊敬する歴史上の人物はない
 先日、ある方がひーこ先生に「座右の銘は何かおありですか?」と尋ねられたが、ひーこ先生からの回答は「特には何もありません」と素っ気なかった。あとで「本当に座右の銘はないのですか?」と確認したが、やはり特にはないらしい。尊敬する歴史上の人物や影響を受けた先人の書物も特にはない。特定の信仰を持っているわけでもない。ひーこ先生の価値観を探ろうとする人にとっては、暖簾に腕押しのようで捉えどころがない。しかし、ひーこ先生本人は口にしないが、影響を受けている書籍や先達・先輩の生き方は様々にある。

影響を受けた高橋幸枝先生の「こころの匙加減」
 その一人が、一昨年103歳で永眠されたが、それまで100歳を超えても現役精神科女性医師として最前線で活躍された、神奈川県にある秦和会・秦野病院の前理事長、高橋幸枝先生である。高橋先生は海軍のタイピンストを経て33歳から医者の道を志し、50歳を超えて神奈川県秦野に精神科病院を立て、地域医療に尽力された。その生き方・考え方は「こころの匙加減」(飛鳥新社発行)という書籍等に記されており、ひーこ先生はその書籍を読み、大いに勇気づけられた。高橋先生の経歴にタイピストがあることも、ひーこ先生自身の病理学教室時代の姿と重ね合わせるところがあったのか、読了した後しばらくは、高橋先生の話ばかりをしていた。
 もちろん、ひーこ先生は自らのクリニックを開業したばかりで、専業主婦時代に医師としてのブランクも経験し、高橋先生のようにキリスト者でもなければ、院長としての大きな実績を持っているわけでもない。しかし、100歳でも現役医師として社会の役に立つという現実的イメージを抱いたのは、高橋先生の影響が少なからずあると思われる。

自然体で生きる
 雑誌「サライ」(小学館発行)のインタビュー記事のなかで、高橋先生が「90歳を過ぎた時から、世間はいろいろと話題にしてくださるのだけれど、特に自慢できるようなことなんてないんですよ。医者という仕事を、人より少し長くやってきた。ただそれだけです」と語っておられるが、ひーこ先生も同じように、常日頃「自慢できる特別なことなど何もない。ただ、目の前の患者さんに一生懸命に対してきただけ」という言葉を繰り返す。“自然体”という言葉が二人から思い浮かんでくる。